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2014/12/11
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PDCコラム 生涯にひとりの師匠
“伝承”という言葉を聞くと、なぜか“北斗の拳”を思い出します。
おそらくほとんどの方々が少なからず経験したことがあると思います。
“北斗の拳”でなく、“伝承”の方ですよ…。
歯科治療は技術職ですので、診断力や技術を身につけるために諸先輩方に教えを請うことも少なくありません。
いま、歯科界では相当な数のセミナーが毎週のように開催されています。年間100時間を超えるコースもたくさんあります。
私自身も卒業してから多くの勉強会を受講しました。
勉強会の中で教鞭をとられている先生方には魅力的な先生が多く、本当に多くの事を教えていただきました。
(本多正明先生、伊藤雄策先生、月星光博先生、下間一洋先生)
そういった意味で自分には尊敬する大先輩が多くおりますが、生涯にわたる師匠と言える方は本多正明先生ひとりです。
本多先生との最初の出逢いは、自分が27歳の時でした。
今現在で15年のお付き合いになります。
本多先生はとても紳士的で、優しさ温厚さが表情からにじみ出ている方です。
そして、何よりも素晴らしいのはその臨床力です。
とにかく仕事が綺麗で素晴らしい!!!
歯科治療には科学性と芸術性が求められますが、本多先生の芸術性は群を抜いていて、間違いなく世界トップレベルです。
その真横で5年間ちかく臨床ができたことは本当に貴重であったと思います。
良き選手が良きコーチであるとは限らないと良く言われますが、本多正明先生は良き教育者としても高い評価を受けています。
本多歯科に勤務された先輩方(南昌宏先生・松川敏久先生)の治療が抜きんでて凄いことは十分理解していました。
ちなみに本多歯科は勤務医(弟子)を基本的に一人しか採用しませんので、一子相伝のような感じです。
自分も勤務にあたり、ずいぶん丁寧に伝承していただけるのだろうとワクワクしていました。
ところが…蓋を開けてみると完全放任主義…こんなに自由でいいのだろうかと悩んだ時期もありました。
ある時、本多先生に治療指針を相談したところ、
「そんなことで相談してこなくていい! 自分で決めなさい。」と静かに言われました。
それからは、単に「どうしましょう?」と相談することは止め、
「いまこういう問題があり、対策としてA案もしくはB案を考えているが、自分はA案でいこうと考えている。
それにあたり、Cのことが解らないので、(専門家の)御意見をください。」と聞き方を変えました。
そうすると本多先生から常に的確に御指導いただけるようになりました。
ご自身で解らないと判断した場合は、その場で専門家の先生に電話で意見を求め答えを導いてくれます。
時には「直接話を聞きにいった方がいいな」と、多くの専門家の先生方を御紹介いただき直接お話を伺うことができました。
その中で、誰一人嫌な顔をせず丁寧に教えていただけたのは、人脈だけでなく本多先生のお人柄と歴史がそうさせているのだと理解したのはごく最近のことです。
そんな多くの出逢いに恵まれながら2年が経過するころから、逆に本多先生に意見を求められるようになっていました。
その場で解らないことは、「今は解らないので明日の朝まで時間をください。」と徹底的に調べました。
ある分野(接着)においては、診療後4~5時間30日程度勉強してからようやくお答えしたこともありました。
21世紀に入るか入らないかの頃、一般的な傾向としてどの分野でも専門性が強くなり、同時に多くの情報が今までにないスピードで飛び込んでくるようになりました。
そういう意味で、情報処理力が求められていた気がします。
しかし、最近はその多くの情報のもつ本当の意味を理解しながら、自分なりに解釈し編集することが求められている気がします。
“知識”ではなく“知恵”を、実践に則した“実践智(Phronesis)”が求められており、そのためには明確なVisionや世界観をしっかり持つことがより大切になります。
本多先生は、その重要性を自然と伝えてくれていたのだなあと思います。
師が弟子に伝えようとするたこと、弟子が師から学びたいこと…どれくらい一致するものなのでしょうか…
弟子でしかなかった時代の自分は、師に知識(診断力・技術)を求めていました。
いま、自分が多くの弟子(スタッフ)を持つようになり、自分が伝えたいことは明確なVisionや世界観であることを知りました。
そしてそこには弟子にたいする無償の愛が存在することも知りました。
それは弟子に歯科医療に対する情熱を感じるからこそ生まれる愛であることも知りました。
生涯の師匠に出逢えたこと、これは自分にとって何にもがえがたいものであり、
自分が歯科医療に情熱を持ち続けることが師への恩返しであることを強く信じて邁進していきたいと思っています。