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2023/12/13
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千年にひとりの逸材(再掲載)
*2023年11月4日 高添一郎 東京歯科大学名誉教授 ご逝去されました。ご生前のご功績を偲び、心からご冥福をお祈り申し上げます。
15年前のブログですが、そのままにしておきます。
===千年にひとりの逸材===
たぐい稀な才能の持ち主は各分野に少なからずいるものです。
プロ野球界のイチロー選手、プロゴルフ界の石川亮選手などが例に挙げられるでしょう。
彼らの業績は人々に夢と感動を与えてくれます。
しかし、その裏にある努力や凄まじいプレッシャーは、たとえ同じ分野でなくとも想像を絶するレベルであろうことだけは分かります。
自分がそのような一流と呼ばれる方々を見ていつも感じていたことがあります。
それは、その方々に共通している <明るさ> と <優しさ> です。
若かりし頃はそれが不思議でなりませんでした。
それほどの実力や業績があるにもかかわらず、決して威張ることなくいつも穏やかで謙虚なのです。
自分が歯科医になって8年が過ぎた頃、とりあえず何でも出来るようになったと鼻が上を向き始めていました。
そんな折、普段交流のない先生方が集まる勉強会に参加することにしました。どうやらそこに本物の先生がいる…という情報があったからです。
その勉強会はとても変わっていました。
それまで参加してきた勉強会というのは、講師の先生のお話を拝聴するのがほとんどです。
しかし、この会ではひたすらディベートを繰り返します。そうすることによって自分の考え方を整理する(ブレイン・ストーミング)というものでした。
その会における論議の方向性が狂わないよう、審判長として登壇されていたのが高添一郎先生でした。
今まで出逢ったどの方ともまったく違う…それが高添先生に出逢った最初の印象、とにかく『優しいオーラ』が桁外れなのです。
高添一郎先生は現在80歳、東京歯科大学名誉教授、野口英世記念会理事長をなさっておられます。
もっとも代表的な逸話は、「自分の知的好奇心のために、自分の奥歯をいくつか抜歯し標本にされた。」というものです。そのために、今は義歯(入れ歯)を装着されています。
高添先生のご略歴は“ この上なく素晴らしい ”ものですが、私個人としては、その「お人柄」や「お話の上手さ」に魅了されていきます。
いまでも不思議に思うのですが、高添先生のお話を伺っているとふと涙が出そうになるのです。
それは悲しい涙でも嬉し涙でもなく、感動の涙に近いのかもしれません。
出逢いの感動から 5 年、多くの時間を共有し多くのお話を伺えることが出来ました。
そして、失礼とは思いながら一度だけ人生相談もさせていただいたこともあります。
その時にいただいたお言葉は「 貴方からの手紙は何度も何度も読みました。私などに何も言えることはありませんが、ずいぶん苦労なさったんでしょう。
貴方は優しい方だからより傷つくのかもしれないねぇ。私もずいぶん苦労はしたけど死なずに生きてますよ。
苦労でひとは死にませんからね。がんばんなさい。」
高添先生の魅力は、歯科に限らずとにかく博学であり、その知識を適切な時に適切な分だけ出せるところ、『一を聞いて十を知る』どころか、百以上の答えを常に持ちあわせているところです。
確かに年の功もあるのかもしれませんが、絶対それだけではないと感じます。
話の本質を即座に見抜き、すべてのバランスをとりながら穏やかに話を展開していく姿は、たとえ歯科関係者でなくとも魅了されます。
一度、思い切って質問をしたことがあります。
「 先生は過去に百年に一度の逸材だと言われたことはありませんか? 」。
高添先生も最初は躊躇されていましたが、「 過去に2〜3度ほど言われたことがありますかね。それでも今では全くダメになりましたよ。私は老化と加齢変化を身をもって学んでいますよ。」
その時、僕は確信しました。
『この方はおそらく千年にひとりの逸材、そして歯科界の宝だ 』と…
いまでも、年に数回は高添先生に御会いする機会はいただけております。
しかし、「もっと多くの時間をいただきたい、千年にひとりの逸材と感じるその魅力を、多くの若き歯科医師達にも感じてほしい」、そう思う今日この頃です。
歴史や芸術の中で、「長きにわたって愛され続けるもの」には、何らかの魅力が必ずあるはずです。
理屈ではなく、それを自然に感じることのできる『感性』、その『感性』を磨くために「魅力ある人や魅力あるものに囲まれて生きること」はとても重要なことなのかもしれません。
その『感性』や『感動』は、ひとを優しく明るくする原動力となり、さらに『多くの魅力あるものを惹きつける』というカスケード(連鎖反応)を生むことでしょう。
「若かりし頃理解できなかった『たぐいまれな才能を持つ方々の魅力』を、恩師 高添一郎先生との出逢いによって知ることが出来た 」と心から敬愛し、感謝しています。